いくつ星があっても
―― 『お前などいらない』 ―― 『期待通りじゃない子供なんていらない』 ―― 『いらない』・・・・! 「!!」 がばっと毛布を跳ね上げてヨウはベットの上に跳ね起きた。 息が荒くなっているのに気付いて前髪を掻き上げながら忌々しげに舌打ちする。 「・・・・・っくしょう・・・・・」 昔、よく見た夢。 一度出された里親から施設に返された後何度も見た悪夢。 それでも年をおうごとに見る回数は減っていたのに・・・・ 「・・・・・あいつらがあんな事をするから・・・・・!」 ―― 自分の里親だった連中がこのエランプロジェクトの情報をマスコミに流した事を知ったのは昨日の事だった。 (今更!今更なんでこんなところにまで顔を出す!!) カナメからその事を聞いた時、悔しさや、怒りや説明しきれないほどの激情が襲ってきて頭の中が真っ白になった。 自分たちからいらないと切り捨てた子供なのに! 育ててもいないくせにエランプロジェクトの候補者として選ばれた途端自分たちの『優秀な』子供だと言う里親達の顔が浮かんできて吐き気がするほどの嫌悪感を覚えた。 だから・・・・だから思わず何も知らずに尋ねてきたナオに怒鳴りつけてしまった。 きっと常にない自分の姿にいつものように心配して声をかけてくれたであろう彼女に。 ふう・・・とヨウは溜め息をつくとベットを出た。 枕元の蛍光加工を施してある時計が指すのはまだ真夜中の時間だがとても眠れそうにない・・・・眠りたくない。 ヨウはベットサイドにかけてあった制服の上着だけ羽織ると部屋を出た。 廊下はひどく静まり返っていた。 昼間は候補者たちや管理者、それに整備士達が行き交ってわりと賑やかなアルファも夜は見違えるように冷たく感じる。 (真夜中なんだからしょうがないか。) わざと残念そうにそう思ってみるものの、以外にこの冷たさが今のヨウには心地よかった。 なるべく大きな足音を立てないように共同フロアを目指しつつ、ヨウはガラス張りになっている天井から宇宙(そら)を見上げる。 そこにはかつて地球に暮らしていた頃人類が「宝石箱をひっくり返したような」と例えた星たちが一面に広がっている。 (でも・・・・) ふとヨウは口元を皮肉げに歪めた。 (これだけたくさんの星があれば必要とされない星もいくつもある。・・・・人もそれと同じで無数に人がいれば必要とされない奴も1人や2人出てくるってことだな。) それが自分だ、と思う。 里親にも必要とされない。 誰も自分を必要としない・・・・だったら自分も誰も必要としなければいい。 誰も必要としなければ、大切な人に裏切られる思いを二度とすることもない。 だから今まで誰も特別に必要としないようにしてきた。 そして実際このアルファに来るまではそうしていられたのだ。 ・・・・なのに、今必要だと思う人がいる。 黒い髪のエランプロジェクトの候補者、ナオ。 なんの気負いもなんの見返りも考えることなく真っ直ぐに人に手を差し伸べられる少女。 いつも優しい笑顔を向けてくれる彼女の側は暖かくて、居心地が良くてずっと側にいたいと願うようになっていた。 でも必要でないと言われたら? それがどうしようもなく恐くてナオに本気でぶつかる事ができない。 ヨウはもう一度溜め息をついた。 重石を抱えたような気持ちのまま共同フロアにヨウは足を踏み入れた。 すると人の体温に反応してフロアに明かりがつく。 ―― と、いきなり部屋の中央あたりに置いてある大きなクッションがもそっと動いた。 「?」 (何かいる?) 首を傾げたヨウはそっとクッションに近づいた。 そして入り口側からでは見えなかったクッションの裏側を覗き込んで・・・・思わず息を飲んだ。 「ナオちゃん?!」 声をあげてしまってからヨウはしまったと口を塞いだ。 しかし呼ばれた本人、制服のままクッションに寄りかかって目を閉じているナオは少しだけ身じろぎしただけで気持ちよさそうな寝息をたてている。 「・・・・・なんでこんなところで寝てるんだよ・・・・・」 ヨウの口からこぼれ落ちた言葉はおそらく万人に共通する感想であっただろう。 しかしその万人に共通する感覚が通用しないのがこのナオなのである。 「ともかく起こさないと。」 くーくーと眠っているナオを起こすのはなんとなく酷な気もするが起こさなくては風邪をひいてしまうかもしれない。 ヨウはそっとナオの細い肩を揺する。 「ナオちゃん・・・ナオちゃん!」 「・・・・ん・・・・あれ、ヨウ・・・・くん?」 薄く目を開けたもののいまだに寝ぼけ眼で自分の目を擦るナオを見てヨウはくすっと笑ってしまった。 まだ夢の片足突っ込んでますという仕草が小動物のようでやけに可愛く見えたのだ。 「おはよ、ナオちゃん。いや、こんばんわかな。」 「え・・・・?」 「今はもう夜中だよ?こんなところでなにしてたの?」 ヨウに聞かれてナオは首を傾げて眉をひそめる。 どうやら眠気はまだ持続中でそれに負けまいと記憶をたぐり寄せているらしい。 「あ、そう。私星を見ようと思ってきたの。」 「星?」 思いだした、と笑ってナオは頷いた。 「今日偶然カイリくんから前に聞いていた星についての解説を書いたメールをもらったの。それを読んでたらどうしても本物の星空が見たくなっちゃってここへ来て・・・・眠っちゃったみたい。」 照れたように笑うナオの笑顔につられるようにヨウはナオの隣に座った。 「どんな星?」 「え?あ、聞いた星の事?うーんとね、ここから見えない星なの。」 「見えない星?」 「うん。すごく遠いところにある星なんだって。アルファからもソピアからももちろん見えないんだけど、遠いところにちょこんとある星なの。」 その話を聞いてヨウの表情がさっと曇った。 誰からも見えない星なんていらない星のような気がして、さっき廊下で考えていた事にかぶってしまったから。 だからぽつっと言ってしまった。 「そんな星、いらない星じゃないか。」 思いの外硬質な声にナオが驚いたようにヨウを見る。 その表情にヨウは昼間の事を思いだして慌てた。 (だめだ、こんな事言ったらまたナオちゃんを傷つけて・・・・) 何か誤魔化すような言葉を口にしようとヨウが口を開くより早く、ナオは笑って言ったのだ。 「いらない星なんてないよ。」 「え?」 「だからいらない星なんてないの、きっと。確かにその星が見えないほど遠くにいる私たちには必要ない星かもしれないけど、どこかでその星を必要としてる誰かがいるから、その星はそこにあるのよ。」 とくん・・・・ 心臓が1つはねた。 (もしかしたら・・・・) 彼女なら言ってくれるかもしれない。 ずっと誰かに言って欲しかった言葉を・・・・ 「ナオちゃん。」 「ん?」 「人は・・・・人はどうかな?その星みたいに必要とされないような人間でも・・・」 途切れてしまった言葉をナオは正確にくみ取ってくれたらしい。 ナオはいつもの暖かい笑顔を浮かべると言ったのだ。 「もちろん!誰にも必要とされない人なんていないわ。たとえそう思ったって絶対どこかで誰かがその人の事を必要としてると思う。」 ・・・・ヨウは一瞬言葉が詰まった。 たった一言なのに、嬉しさが体中に溢れてそのせいで言葉が出ないぐらいに嬉しい。 嬉しいと伝えたいのに、ありがとうと言いたいのになにも言えなくて、どうにかそれを伝えようとヨウはナオを引き寄せる。 「ヨウくん?」 腕の中でナオが少し心配そうに聞いてくる。 その耳元に口を近づけてかすかな言葉でヨウは呟いた。 ―――――― ありがとう ―――――― 「?どういたしまして?」 きょとんっと答えた彼女はきっとたった一言でどれほどヨウを救ったかなんてわかっていない。 それでも全然構わない。 ただヨウはナオを抱きしめ続けた。 ・・・・そのままどれほどいただろう。 ふいに腕の中のナオが重みを増した気がしてヨウはそっとナオをうかがう。 そしてぷっと吹き出してしまった。 ナオは再び夢の世界へ舞い戻っていた。 「あのね、君がいるのは男の腕の中なんだけど。」 なんの警戒もせずに無防備に眠るナオに文句を申し立ててみるが、そんな事は無駄にきまっていて・・・・ ヨウは自分の上着を脱ぐとそれでナオをくるんで背中から抱きしめる形に抱きなおした。 自分を抱きしめる暖かさに気付いたのかすり寄ってくるナオをしっかり抱きしめてヨウはふわあっと欠伸をした。 (やっぱりナオちゃんの側が一番いいな・・・・) 暖かくて幸せで。 自分にとって絶対に必要なナオ・・・・だったら自分もナオにとって絶対必要な人間になりたい。 素直にそう思うことができてヨウは小さく微笑んだ。 そして薄い眠気に包まれながら、ヨウはナオの額にそっと唇を落として呟いた。 「ナオちゃん、君が好きだよ・・・・」 ―― ナオがほんの少し微笑んだような気がした。 〜 END 〜 |
― あとがき ―
初書きのヨウ×ナオです!
いやあ、ヨウって書きやすいかもしれないとなんかしみじみこれを書きながら思いましたよ〜(笑)
あんな過去を持つ彼が前向きになることができた原因はやっぱりナオしかないでしょう!という事
で突発的に書いてみた代物なのですが、いかがだったでしょうか。
しかし寝ぼけながらも人1人救ってしまうナオって無敵だ(笑)
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